「ロリータ・コンプレックス」の版間の差分

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ロリコンという言葉は、[[オタク]]文化の発展の中で、独自の意味を持ち、またキーワード的な役割を果たすようになった。そういった中で、関連する様々な言葉も作られた。
 
ロリコンという言葉は、[[オタク]]文化の発展の中で、独自の意味を持ち、またキーワード的な役割を果たすようになった。そういった中で、関連する様々な言葉も作られた。
  

2011年1月23日 (日) 02:30時点における版

ロリコン

ロリータ・コンプレックスとは、幼女・少女に対する(主に成人)男性の性的または恋愛的関心・性嗜好をいう。社会一般では多くの場合、正常ではない性嗜好とみなされている。類義語に小児性愛ペドフィリア)がある。短縮形「ロリコン」の場合は、そのような性的嗜好を持つ人も指す。和製英語ではないが、英語圏ではあまり使用されず、主に日本で用いられて来た。近年は、日本語での rorikon を英語化した 「lolicon」の形で、逆に輸出され海外でも使われている。語源は、中年の男性が年の離れた少女を愛する、ウラジーミル・ナボコフの小説『ロリータ (Lolita)』に由来する。

概説

ロリコン

ロリータ・コンプレックスという言葉は、発生当初は年長の男性を愛する少女の心理を指したが、この意味ではさほど普及を見なかった。現在では、一般に幼女から未成年(とりわけ思春期)の少女への性嗜好を表す場合が多い。また対象を女児とする場合の小児性愛の意味で使われることがある。広くは恋愛対象としては若すぎると考えられる年代の女性や、実年齢にかかわらず幼く見える女性に惹かれる心理をさすこともある。俗語であるため言葉自体は、このように意味が曖昧であるが通常、未成年の少女に惹かれる年長男性の心理をさす。

一般には「ロリコン」と省略して用いられるが、「ロリコン」という言葉は単にロリータ・コンプレックスの略語として使われるだけでなく、漫画アニメゲームなどに登場する幼・少女キャラクターの熱心なファン等、つまり、このような心理を持つ主体を指すことがある。これらの意味で用いられる Lolicon は、日本国外でも通用する言葉になっている。

言葉の由来

「ロリータ・コンプレックス」および「ロリコン」という言葉が、いつどのような契機で日本で使われるようになったかは不明であるが、1980年前後に急速に広まった。まず、1969年に邦訳出版されたラッセル・トレイナー『ロリータ・コンプレックス』によって日本にこの言葉が紹介されたと思われる。この本は、ロリータ・コンプレックスを年長の男性を愛する少女の心理として、少女の無意識的な願望や衝動の複合ととらえ、その内実を父親固着コンプレックスや去勢願望から説明している。しかし、その後このように少女の心理を説明する意味で使われることはほとんどない。

1970年代に、幻想文学論や性愛論で知られた評論家・作家の澁澤龍彦は、『少女コレクション序説』(1973年発表)のなかで、トレイナーの著書『ロリータ・コンプレックス』に批判的に言及した。澁澤は、「ロリータ現象なるものは、視点を少女の願望において眺めるよりも、むしろ視点をハンバート(『ロリータ』に登場する男性)、いや、ナボコフ自身の側において眺めるべき問題ではなかろうか」と視点を逆転させた。

更に、「純粋な観念の世界で少女のイメージを執拗に追い求めるナボコフのすがたに」読者はいやおうなく感動させられる。かつ、観念の「淫蕩にふけっている著者の立場はおそろしいほど孤独なの」であり、それは男の性欲の一方通行の極地である、と論じた。澁澤は以前に、コンプレックスという心理現象を少女に執着する男の側に当てはめるとき、自分の娘に似せて作った人形を愛した哲学者の名にちなんで、「デカルト・コンプレックス」と呼んでおり、その本質を人形愛に近いもの、そして幼児退行的ナルシズムと規定している。ほぼ同じ頃から使われたらしい「ロリータ・コンプレックス」という概念は、この澁澤的な内容である。1974年『別冊マーガレット』掲載の和田慎二のコミック「キャベツ畑でつまずいて」のなかに、「嘘つけ!ロリータコンプレックス!」と女性が男性を罵倒する場面があり、欄外注に解説が「小さな子供ばかりを好きになる異常性格」とつけられている。

オタク文化としてのロリコン

ロリコン

ロリコンという言葉は、オタク文化の発展の中で、独自の意味を持ち、またキーワード的な役割を果たすようになった。そういった中で、関連する様々な言葉も作られた。

一部の同人・オタク世界では、中学高校生の年代に当たる思春期少女への性的嗜好に限定してこの用語を用いる場合がある。この場合それ以下をアリス・コンプレックス、さらに下をハイジ・コンプレックスと呼んだりもするが、その年齢の定義にはさほど一定したものはない。

なお・同人・オタク世界でつかわれる対義的な言葉として、年長者が少年・男児に対して性的関心を抱く性向のことを「ショタコン」と呼ぶ。ただし、年長者側が男性に限られる「ロリコン」とは違って、ショタコンの場合、大人の側は男女の性別を問わない。

初期

1980年ころ、『少女アリス』(発行5万部)に掲載されていた吾妻ひでおの漫画作品群が評判になり、これが「ロリコン漫画」とよばれ有名になる。ロリコンという言葉が日本で一気に広く知られるようになるのはほぼこの時期である。背景にあった状況としては、70年代後半から始まった初期の同人活動(コミックマーケット)があり、吾妻の周辺にいた作家たちは同人世界でロリコン漫画を製作している。雑誌『out』80年12月号には米澤嘉博「病気の人のためのマンガ考古学 第一回 ロリータ・コンプレックス」が現れている。コミックマーケット主催者であった米澤によると、ロリコン漫画は、参加者の8割が女性でアニメパロディによる「やおい」同人誌が圧倒的に優勢であった中における、男性による対抗表現であったという。

1978年、最初のロリコン同人誌といわれる蛭児神健の文芸誌『愛栗鼠』、79年にはその増刊『ロリータ』があり、1979年には吾妻グループの編集したロリコン漫画同人誌『シベール』が存在した。同人世界でロリコン・キャラクターとして知られたのは、1979年公開映画の宮崎駿監督『ルパン三世・カリオストロの城』(1979年12月東宝)の中で伯爵に監禁される美少女クラリスであり、映画内のルパンの台詞「妬かない、妬かない、ロリコン伯爵」は同人における「ロリコン」ブーム誕生の原点とされることもある。

更に70年代に少しずつ現れた少女ヌード写真集が一般書店の店頭に出て、1979年の『プチフェ』(石川洋司)や『Little Pretenders』(山木隆夫)のような話題作を出していたことがあり、漫画史的な部分ではいわゆる「24年組」の活躍で普及した少女漫画(吾妻ひでおのロリコン漫画は少女漫画の影響をうけている)の存在もあげられる。

ロリコンの普及と分化

こうして80年頃から幼少女への性愛をあつかった表現が人気を集め、ロリータ・コンプレックス、ロリコンという言葉は急速に世に氾濫し一般化した。日活が「にっかつロマンポルノ」作品として1983年に『ロリコンハウス おしめりジュンコ』(青木琴美主演)という作品を作ったり、漫画では内山亜紀(=野口正之)『ロリコン・ラブ』のようなメジャーなヒット作品も現れた。

この80年前後から84年までは「ロリコン・ブーム」とよばれ、多くの写真集・雑誌・特集本などが出版された。この時代のロリコン特集本はなお、ロリコンの名の下に写真から漫画、文章まですべてひっくるめて含んでいることが多いが、他方このブームのさなかにロリコンをめぐる表現は急速に分化し、商業誌のレベルでも嗜好の違いが明確になって棲み分ける現象が進んでいった。

ロリコン漫画の発展

象徴的な例として、当時すでに行き詰まったエロ劇画誌からいくつかの商業誌が「ロリコン漫画誌」に転向していたが、『レモンピープル』とともにそのようなロリコン誌として知られた『漫画ブリッコ』が1983年、それまで毎号のせてきた少女ヌードの写真グラビアを読者からの不評によって廃止し、さらにリアルな写実劇画からも決別して記号絵的な漫画をメインとする創作誌となっている。こうして本格的にジャンルとして成立したロリコン漫画の特徴としては、抽象的なデフォルメされた表現、非リアルな状況をつくる想像力の産物であることなどが注目される。

この頃のロリコン漫画には人ならざる異生物に犯される幼少女といったテーマが多かった。そしてアニメのキャラクター少女を自由に物語化して表現することも同人誌活動の間で普及する。こうした現象は評論家の注目をひき、1983年、中森明夫は後に有名になる『おたくの研究』(『漫画ブリッコ』掲載)において、おたくを本質的にロリコンと評し、そのなかでも生身のアイドル少女に執着するものと、アニメの創作キャラクターなどに執着するグループに分けている。

この後者に当たる漫画・アニメ、また80年代後半からはゲームにおいて発展していった創作的・想像的なロリコン表現とその受け手たちの世界は、間もなく大きな独自領域を開き、日本にユニークなオタク系ロリコン文化を成立させることになった。

日本での法規制

1984年、国会は少女誌『ギャルズライフ』を取り上げ、少女向け性情報へ警戒を強める。1985年から初期のPCゲームの性表現が批判され、ロリコン漫画も折に触れて批判を向けられた。直接の規制を被ったのは、まず、一般紙のグラビアに載るほどメジャーになっていた写真分野(少女ヌード)であって、1985年警察による無修正写真の禁止、87年雑誌『プチトマト』発禁事件、児童福祉法の強化による摘発で弱体化していった。

1985年頃から『週刊女性』など女性週刊誌、また一般誌ではロリコン表現に対して「少女がロリコンの欲望の餌食に」といったバッシング記事が載るようになっている。80年代には「新人類」という言葉に象徴される世代間文化の断絶、自らの嗜好やファンタジーを突き詰めて「内閉的」とみえる文化を作り上げた特定の若者層への、一般社会からの漠然たる不安があった。1988年末から1989年におきた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件において、これらの不安は現実に裏付けられたとも感じられ、法的規制の正当性が主張される契機ともなる。

1989年以降、漫画・ゲームとも沙織事件のような実際の摘発事件も含めて、規制圧力と自主規制に公然と晒されるようになった。批判に対抗するため漫画表現を守るための団体も作られ、長く論議が続くことになる。写真分野は決定的な打撃を受け、89年以降日本国内での生産が困難になり東南アジアロシアに撮影の場所を移したが、結局1999年の児童ポルノ法で壊滅、以降は性的な表現のないジュニアアイドル産業に場を譲った。

性犯罪とロリコン

上述の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件は、ロリコン表現に対する法的規制圧力、自主規制等に拍車をかけたが、ロリコン自体の社会的認識に、別の位相も、もたらした。この事件の結果として、児童への性犯罪が大きくクローズアップされ、被疑者が典型的な「ロリコン」と報道されたうえ、同時に「オタク」という言葉をマスコミが再発見して世間にさまざまな否定的なイメージを振りまいた。そのため、ロリコンという言葉は、「幼少女に対して現実に性的嗜好を抱く異常性愛者」の固定したイメージで広く知られるようになった。

大人の女性を恐怖し対等に相手が出来ない男性が「ロリコン」に走る、という考え方が世間的に広まり、さらに幼少女キャラクターのファンとしての「ロリコン」に対してもこのような異常性愛者としたイメージを抱き、「ロリコン」を「問題のある人格イメージ」とする傾向が社会に生まれている。 ロリコン的とみなされる創作表現への規制推進もしばしばこうした感覚に支えられて主張される事があるが、一方、そうした社会的に流布された観念を全くの偏見であるとする反論も多く存在している。
また統計的観点から、ロリコン表現が出現する以前の方が性犯罪被害児童の数はずっと多かったことを指摘し、表現への過度の規制を批判する声もある。

少女への性愛としてのロリコン

第一次性徴期および第二次性徴期早期の幼女・少女への性的嗜好は概ね小児性愛という異常性愛として考えられている。第二次性徴期後期以降の少女への性愛は概ね、精神医学では性嗜好障害とされていないものの、社会的に問題があるとみなされることが多い。歴史的には、近代以前の生活形態においては必ずしも異常なことではなかったものの、少女婚等の忌避傾向は時代・地域によって大きく異なる。

日本に限っても、深刻な人口減少に陥った18世紀の東北地方では十代前半の少女婚はごく当たり前に行われていたが、18世紀後半には中部以西では宗門改帳等による人口の調査研究によると女子初婚年齢が20歳を越えていたと推測される例が多い。近代に入り、婚姻年齢が上がり、「愛護育成されるべき児童」という概念が確立し、成人と児童との区別が厳格になされるようになるにつれ、社会道徳的・児童人権的な側面からも社会的に「逸脱」とされるようになった。

文化における禁忌としてのロリコン

ひるがえって欧米では、もともとキリスト教的道徳の下地があり小児性愛への社会的タブーは同性愛とともに大きなものがある。一概にはいえないが、児童ポルノ問題を経て、未成年の性を成人が関心の対象とすることに対し厳しい政策へ向かった社会も目立つ。この種の漫画表現に対する規制も厳しい。

法的にはEUの一部やカナダのように法規制が緩やかな国もあれば、英国・米国のように小児への性犯罪に厳しい態度(クリントン署名による法定強姦罪厳密適用令などで、かなりの州で18歳以下の児童との性交を強姦とみなすなど)をとる国まで、広がりがある。

ただし、禁忌の度合いと法規制は必ずしも直接的な関係にあるわけではない。これは、違法性において法益侵害と規範逸脱のいずれを重視するかが国により異なること、すなわち法体系の相違に起因する。例えば、日本では法益侵害を重視する学説が優勢であり、社会通念上重大なタブーである近親姦もこれ自体を犯罪として取り締まる法律はなく、近親婚を不許可とするのみである。それに対しコモンローを法基盤とする英米では社会規範からの逸脱を重く見る傾向がある。

近接概念

なおロリータ・コンプレックスに近い欧米の概念としては、ロリータ・シンドロームがある。およそ13-18歳くらいの思春期児童への性的関心を、広義にエフェボフィリア(Ephebophilia)と呼び、そのうち少年へ向かうものは、少年性愛、少女へ向かうものを少女愛、あるいはロリータ・シンドロームと呼ぶ。欧米でロリコン(Lolicon)ではなく、ロリータコンプレックス(Loita complex)と使う場合は、ロリータ・シンドロームと同じ意味で使う。日本では「ロリータ・シンドローム」に対応する概念は一般的ではない。

関連書籍

心理学の観点から書かれた本。
  • 内山亜紀 『ロリコンABC』 久保書店 1983年 (Worldコミックス)
  • 『ロリコン大全集』 改訂版 群雄社出版 1983年
  • 『ロリコン白書 by ふゅ-じょんぷろだくと』 エンドレス企画 1982年
  • 内山亜紀 『ロリコン・ラブ』 久保書店 1983年
  • 『体験告白・僕のロリコン=ラブ』 日本ダイパック 1983年
以上は、ロリコンブームのときの同時代出版物。
  • 岩田薫 「大学生をおおうロリコン症候群(シンドローム)」 潮 1982年9月号
ブームに対し一般誌が若年男性のロリコン化を取り上げるようになる。これはそのもっとも初期の論文。
  • 『澁澤龍彦全集』 河出書房新社 1993年~
  • 大塚英志 『「おたく」の精神史 1980年代論』  講談社現代新書 2004年
  • 宮台真司ほか サブカルチャー神話解体―少女・音楽・マンガ・性の30年とコミュニケーションの現在 PARCO出版 1993年 ISBN 4891943602
当事者による歴史的な証言あり。性メディアや「おたく」と「新人類」の闘争。宮台は新人類寄り、「漫画ブリッコ」編集長だった大塚はおたくからの視点。

関連項目

感情複合

性愛

文化

その他